心を穏やかにする食事(平野医師)
心を穏やかにする食事、心を乱しやすい食事
「最近、気分が落ち込みやすい」「なんとなく不安が続いている」—そう感じたとき、まず思い浮かぶのは睡眠やストレスかもしれません。でも、毎日の食事が心の状態に深く関わっているということをご存じでしょうか。
実は、脳内で「気分」や「落ち着き」を生み出す神経伝達物質は、食事から摂る栄養素を材料にして作られています。「何を食べるか」が、そのまま心のコンディションに直結しているのです。今回は、メンタルの安定を支える食べ物と、逆に心の不調を悪化させやすい食べ物について、わかりやすく整理しました。
「心を穏やかにする」3つの重要栄養素
① マグネシウム|神経の興奮を「静める」ミネラル
マグネシウムは、神経細胞が過剰に興奮するのを抑えるブレーキのような役割を持っています。不足すると不安感やイライラが増しやすくなるといわれています。
✔ 多く含む食品:アーモンド・くるみなどのナッツ類、豆腐・納豆などの大豆製品、ほうれん草、海藻類、玄米
② ビタミンB群|セロトニンをつくる「縁の下の力持ち」
ビタミンB群は、気分を安定させる神経伝達物質(セロトニンやドーパミン)を合成するために欠かせない栄養素です。特にB6は、トリプトファンからセロトニンへの変換を助けます。
✔ 多く含む食品:豚肉・レバー、卵、豆類、全粒穀物(玄米・全粒粉パン)
③ オメガ3脂肪酸|脳の炎症を「鎮める」良質な脂質
脳や神経の細胞膜の主要成分であり、抗炎症作用によって気分の安定に関与するとされています。うつ状態との関連も多くの研究で示されている栄養素です。
✔ 多く含む食品:サバ・イワシ・サーモンなどの青魚(週2〜3回を目安に)
腸と心はつながっている—「腸脳相関」という考え方
「腸は第二の脳」という言葉を耳にしたことはありますか?腸内環境が乱れると、腸から脳への信号が変化し、気分や不安感にも影響が出ることが明らかになっています。これを「腸―脳相関」と呼びます。
腸内環境を整えることは、メンタルケアとしても非常に有効です。意識してとりたいのは次の食品です。
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【腸内環境を整える食品】 ・発酵食品:ヨーグルト、味噌、納豆、キムチ(乳酸菌・有用菌を直接補給) ・食物繊維:野菜・海藻・きのこ類(腸内の善玉菌のエサになる) |
「心を乱しやすい」食事—避けたいもの4選
心の安定を助ける食べ物がある一方で、摂りすぎると不調を悪化させやすいものもあります。特に気をつけていただきたいのが以下の4つです。
① 砂糖の多い食品|「血糖値の乱高下」がイライラや不安を招く
砂糖を一気に摂ると血糖値が急上昇し、その後インスリンが過剰に分泌されて急降下します。この血糖値の乱高下が、イライラ・不安感・強い疲労感の原因になることがあります。
⚠ 特に注意:ケーキ・菓子パン・清涼飲料水・甘いコーヒー飲料
② 超加工食品|慢性炎症がメンタルを蝕む
スナック菓子・加工肉・インスタント食品などの超加工食品は、体内の慢性炎症を促進しやすいとされており、うつ症状や不安との関連が研究でも報告されています。
③ カフェインの過剰摂取|交感神経を刺激して不安・不眠を悪化させる
カフェインは交感神経を刺激するため、過剰に摂ると不安感・動悸・不眠が悪化することがあります。もともと不安感やパニック症状のある方は、特に影響を受けやすい傾向があります。
⚠ 注意したいもの:エナジードリンク・濃いコーヒーの多飲・カフェイン錠剤など
④ アルコール|「一時の安らぎ」の後に反動が来る
アルコールは飲んでいる間は不安を和らげるように感じますが、アルコールが分解される際に不安が増強したり、睡眠の質が著しく低下したりすることが知られています。「飲まないと眠れない」という状態は、特に注意が必要なサインです。
まず今日からできること
気持ちが落ち込んでいるとき、食事の準備はおっくうに感じるかもしれません。それでも、「今日は青魚を食べよう」「ヨーグルトを一つつけよう」という小さな一歩が、心の回復を支える積み重ねになります。
薬物療法や心理的なアプローチと並行して、日々の食生活を整えることも、れっきとしたメンタルケアのひとつ。難しく考えずに、今日の食卓から少しずつ試してみてください。
【症状別】こころと自律神経を整える食品一覧
ご自身の症状に近いものを探して、日々の食事の参考にしてみてください。
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症状・状態 |
積極的にとりたい食品 |
理由(作用) |
控えたい食品 |
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不眠 |
牛乳・ヨーグルト、大豆製品(豆腐・納豆)、卵、バナナ、ナッツ類、青魚 |
トリプトファンを含み、セロトニン・メラトニンの合成を助ける |
カフェイン(コーヒー・緑茶)、アルコール、夜の高脂肪食 |
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不安・緊張 |
ナッツ類(アーモンド・くるみ)、大豆製品、海藻、玄米、青魚(サバ・イワシ) |
マグネシウムが神経興奮を抑制。オメガ3が抗炎症作用を発揮 |
エナジードリンク、濃いコーヒーの多飲、カフェイン錠剤 |
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イライラ・怒りっぽさ |
豚肉・レバー、卵、全粒穀物、豆類、緑黄色野菜 |
ビタミンB群が神経伝達物質の合成をサポートする |
糖分の多い菓子・清涼飲料水(血糖値の急激な変動を招く) |
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気分の落ち込み |
青魚、発酵食品(味噌・納豆・キムチ)、野菜・果物、オリーブ油 |
抗炎症作用と腸内環境の改善で「腸―脳相関」をサポート |
超加工食品(スナック菓子・加工肉・インスタント食品) |
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集中力の低下 |
卵、青魚、大豆製品、ナッツ類 |
良質なアミノ酸と脂質が神経機能の維持に貢献 |
砂糖の多い菓子・清涼飲料水(血糖値の乱高下が集中力を妨げる) |
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ストレス過多 |
青魚、ナッツ類、緑黄色野菜、発酵食品 |
抗炎症作用と自律神経の安定化に有効 |
アルコール過量(一時的に落ち着くように感じるが、その後に反動が出やすい) |
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動悸・ソワソワ感 |
海藻類、豆類、ナッツ類、バナナ |
マグネシウム(Mg)とカリウム(K)が神経と心臓の興奮を落ち着かせる |
カフェイン・刺激物(交感神経を過剰に刺激する) |
※本コラムは一般的な栄養情報をもとに作成したものです。特定の症状の診断・治療に代わるものではありません。症状が強い場合は、医師や専門家にご相談ください。
執筆者:平野 雄(ひらの たけし)医師
◆ 勤務日
金曜(9:00-17:00)
◆ 得意分野
職場におけるメンタル不調(ハラスメントなど)
栄養と心の関係
がん(腫瘍)と遺伝子の話し(基礎研究)
消化器疾患
◆ 資格
臨床栄養指導医
産業医