大学生のメンタル不調(平野先生)
私は30年間、大学教員として多くの大学生たちを見てまいりました。
大学生は一見「自由で楽しそう」に見えます。
けれど実際には、環境の急変(進学・一人暮らし・人間関係・学業・就活)にさらされ、心身のバランスを崩しやすい時期です。そして、不調は、睡眠・食欲・集中力・意欲など生活機能の変化として表れます。
「自分だけがこんなにしんどいのかな」「受診するほどのことじゃないかな」——そんなふうに感じながら、この記事にたどり着いた方もいるかもしれません。
① そもそも、大学生のメンタル不調ってよくあることなんでしょうか?
大学生のメンタル不調は、決してめずらしいことではありません。まずそのことを、知っていただけたらと思います。
日本の大学新入生を対象にした調査では、約25%(4人に1人程度)に抑うつ症状がみられたと報告されています。
コロナ禍以降は、「消えたい」という気持ち(希死念慮)を抱える学生も増えたという研究報告があります。
外来でも、「こんなことで来ていいのかわからなかった」とおっしゃる方がとても多いんです。でも、数字が示す通り、あなたがしんどいのはおかしなことでも、弱いことでもありません。
② なぜ大学生はしんどくなりやすいのでしょうか?
大学生という時期は、変化が一度に押し寄せる時期です。
- 生活リズムが崩れやすい(睡眠・食事・運動・日光)
- 相談できる人がいない、孤立を感じやすい
- 単位・実習・就活など、評価へのプレッシャーが続く
- 奨学金・物価高・アルバイトの掛け持ちによる経済的な不安
これだけのことが重なれば、心身のバランスが崩れても不思議ではありません。「もっとがんばれたはず」と思う必要はないんです。
診療現場でも、こうした複数の要因が重なって不調が深まるケースは、本当によくあります。
③ どんなサインが出たら、相談の目安になりますか?
次のようなことが、2週間以上続いていませんか。
- 気分が落ち込む、前は楽しかったことに興味がわかない
- 眠れない、または眠りすぎる、昼夜逆転が続いている
- 授業に出るのがつらい、家事や日常のことが回らなくなってきた
- 頭痛・腹痛・動悸など、からだの不調が続くのに検査では異常がない
- 「消えたい」「いなくなりたい」という気持ちがある
こんなサインが出たら「休養ではなく、相談」を
特に「消えたい、いなくなりたい」という気持ちは、早めに動いてほしいサインです。大学の保健センターや学生相談室、または近くのメンタルクリニックに、なるべく早めに連絡してみてください。
「休めば治るかも」と待ちすぎることで、回復が長引いてしまうことがあります。休養と相談、両方が必要な時期があります。
④ 受診したら、何を話せばいいんでしょう?
「うまく説明できるか不安」という方、多いです。でも大丈夫です。
「いつ頃から」「どんな感じが続いているか」「日常のどのあたりがつらいか」——それだけで十分です。診断名をつけることよりも、今の状態を一緒に整理することのほうが、最初の一歩としては大切です。
当院にも、「こんなことで来ていいのかな」とためらいながら来てくださる方がたくさんいます。話してみると、「来てよかった」とおっしゃることが多いです。
⑤ すぐに受診できなくても、今日からできることはありますか?
あります。まずは、生活のリズムを少し整えることから始めてみてください。
大学生が“今日から”できる、現実的な立て直し
- 起床時刻を固定する:まず起床時刻を固定して、昼夜逆転を戻す入口です
- 「1人で抱える」をやめる(相談先を2つ以上):友人や大学の学生相談(または学外の医療機関)など、逃げ道をいくつか用意する。
- 課題を“細切れ化”して着手ハードルを下げる:「レポートを書く」→「資料を1本開く」まで分解。できるところから始める。
- アルバイト・SNSの“総量”を見直す:生活が回らない原因が「時間の不足」なら、根本は量の調整です
うまくいかなくても、自分を責めないでください。生活が崩れやすい状況に置かれているのであれば、それは意志の問題ではなく、環境の問題です。
⑥ まとめ:一人で抱え込まないでください
大学生のメンタル不調は、誰にでも起こり得ることです。「気合い」や「根性」でどうにかなるものでもありません。
大切なのは、不調のサインを早めに気づいて、誰かに話すことです。診断よりも前に、まず「今の状態を言葉にする」だけで、少し楽になることがあります。
一人で抱え込まず、まずはご相談ください。話してみることで、見えてくることがあります。
最後に:メンタル不調は「気合い」では治らない。でも「早期対応」で軽くできる
参考資料:どのくらい多い?:研究・調査が示す「数字」
- 抑うつ症状は4人に1人程度:日本の大学新入生を対象にした疫学研究では、約25%が抑うつ症状を有していたと報告されています。
(※大学生協(HWS協会)による資料より)
- コロナ禍以降、うつ症状・自殺関連念慮が悪化したという報告:秋田大学の研究チームの調査では、PHQ-9で、中等度(10点以上)の抑うつ症状が11.5% → 16.6%に増え、自殺関連念慮が5.8% → 11.8%に増えた、という結果が報告されています。
(文献1より)
※PHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)は、うつ病の症状の有無と重症度を評価するための自己記入式質問票
- 若者の自殺は“大学生年代”とも無縁ではない:厚労省資料では、若者(15 〜 29歳)の自殺者数は、令和2(2020年)以降 3,000人超の高止まり傾向が続いていることが示されています。大学生が含まれる年代であり、見過ごせない課題です。
(※『若者の自殺をめぐる状況』(厚生労働省 自殺対策推進室 発行)より)
- 相談の中身は「からだ」より「こころ」が中心になりやすい:学生の相談動向に関する報告では、コロナ流行期に「こころの相談」が58%になり、2021年度以降も「半分以上がこころの相談」といった傾向が紹介されています。
(※ティーペック主催 オンラインセミナー資料:「コロナ後変わった! 学生相談の傾向とその対策」(2023年12月開催)より)
文献1)Nomura K, Yamazaki T, Maeda E, et al. “Longitudinal survey of depressive symptoms among university students during the COVID-19 pandemic in Japan.” Proceedings published via PubMed Central. 2022. PMID: 36092090