アルコール依存症とは、お酒の飲み方をコントロールできなくなる症状です。 飲酒量、飲酒のタイミングや状況などを患者でコントロールできなくなる状態で、 飲酒が良いものではないと自覚はしているものの、 飲酒せずにはいられない一種の禁断症状のような状態となってしまう症状です。 かつてアルコール依存症はセルフコントロールができない、だらしない人間の症状だとの風潮もありました。 しかし昨今は、自力での改善が難しい、つまりは治療を必要とする症状であるとの認識が広まりつつあります。
アルコール依存症の原因は、継続的な飲酒によるものです。
飲酒は決して悪いものではありません。
「酒は百薬の長」とのことわざもあるように、
適量の飲酒は気分を高めるなど、良薬に勝るとも劣らない効果があります。
しかし、習慣的・継続的な飲酒はアルコールの耐性を高めてしまいます。
つまり、飲めば飲むほど酔いにくくなります。
アルコール耐性が低い時には少量の飲酒でも気分よく酔えるものです。
しかし、飲酒を継続し、習慣化されると少量の飲酒では酔えなくなり、
次第に飲酒量が増えます。
アルコールが脳に運ばれると、神経回路に影響が出ることから、
やがては依存するかの如く、アルコールを求めるようになります。
アルコールを摂取しなければ、眠れない、気分が悪い等、
日常生活にも支障をきたすようになってしまうのでアルコールを求める一方、
アルコールを摂取することで耐性ができてしまいアルコールの量が増えてしまいます。
この悪循環が患者をアルコール依存症へと導いてしまいます。
アルコール依存症に陥ると、アルコールを飲みたい衝動を抑えきれなくなるだけではなく、
お酒が抜けている時、神経バランスが崩れることで手の震え、幻覚、離脱症状等が起きます。
また、アルコール依存症特有の「否認」も見られます。
これはアルコール依存症だと自覚しないことです。
客観的に、アルコールを大量に摂取し、泥酔している状態だと見受けられるものの、
本人はお酒を飲んでいないと否認したり、アルコール依存症そのものを否認することから、治療の遅れを生じさせます。
また、脳萎縮、高血圧、大腸がんなどを併発させてしまうリスクが高まりますし、
アルコールを摂取できない禁断症状の際、自我を保つことができず、
優先順位がアルコール摂取となることから攻撃的になったり、
周囲の声に耳を貸さなくなり、社会生活に問題が生じるなどの症状がみられます。
アルコール依存症の検査はWHOのICD-10の依存症候群の診断基準が用いられています。
飲酒への渇望や飲酒コントロールの喪失、体制、離脱症状、飲酒中心の生活、
否認の6つの項目を、過去1年間で3つ以上満たしている場合、
アルコール依存症だと診断されます。
他にも、アメリカ精神医学会のDSM-5が用いられるケースもあります。
この場合、アルコール依存症ではなく、アルコール使用障害という新しい概念も登場しています。
こちらに関しては11の診断項目のうち、該当項目項数によって軽症、中等症、重症に分類します。
アルコール依存症の治療の根幹は断酒です。
お酒を飲まければ、アルコール依存症はいずれ改善されるのですが、
厳しい禁断症状が出る場合には、断酒ではなく、飲酒量低減から行います。
但し、いきなり飲酒量を調整しようと思っても難しいものなので、
カウンセリングを実践しながら、断酒、
あるいは飲酒量軽減のための環境構築・サポートを行います。
このような社会心理的治療がアルコール依存症の根幹ですが、
人工的に下戸にする抗酒剤、あるいは飲酒欲求を低減・抑制する断酒補助剤を
使用するケースもあるのですが、
アルコール依存症はこれらの薬だけで治療できるものではありません。
重症の場合、周囲の理解も不可欠ですし、
自助グループを通して問題解決を図るケースもあります。
治療後の注意点、そして予防共にアルコールを摂取しすぎないこと、
つまりお酒を飲み過ぎないことを徹底する点にあります。
アルコール依存症は、治療を受けて改善しても、
およそ7割の患者様が1年後には飲酒量が元に戻ってしまうとの報告もあるように、
再発率の高い症状です。
お酒の量を減らすことが大切ではありますが、
お酒に頼らない生活を構築することも大切です。
例えば、それまで嫌なことがあると飲酒する習慣の患者は、
飲酒ではなく、運動や趣味などでストレスを解消するよう心がけるなど、
お酒に頼らない生活環境の構築が重要です。
ちなみに男性の場合、1日20gのアルコール量であればリスクが低いとされており、
この量はビールに換算するとおよそ500mlになります。
適量を保つこと、そしてお酒に頼らない生活環境の構築が、
アルコール依存症の予防と治療後の注意点双方に共通したテーマです。